シュレーディンガーの猫とは? 最小限の専門用語で分かりやすく解説!

  • 2021年8月9日
  • 2021年8月14日
  • 小話
シュレーディンガーの猫とは?  ~~彼は何を伝えたかったのか~~ 最小限の専門用語で分かりやすく解説!

「シュレーディンガーの猫」という実験を聞いたことがあるでしょうか。

知名度が高い実験なので,耳にしたことがある人も多いと思います。

ただ,「どのような実験か説明してほしい」と言われると,
なかなか難しいようです。

シュレーディンガーの猫を正しく理解するためには,
量子力学という分野の専門知識が不可欠なので,
専門用語の多さに飽き飽きした方も多いのではないでしょうか。

本記事では,使用する専門用語を最小限にとどめて説明してきたいと思います。
(どうしても外せない内容については,用語説明から行っていきます)

量子力学を学んだことがない方も,
「シュレーディンガーの猫とはどのようなものか。何が言いたかったのか」
ということを知っていただければ幸いです。

はじめに

そもそもシュレーディンガーの猫とは,
量子力学という学問の考えに対して「その考え方おかしいんじゃないの?」
ということを示すためのものです。

なので,シュレーディンガーの猫の内容だけを見ても
意味が分からないですし,意味がないのです。

まずは,内容を理解するための予備知識をご紹介します。

理解に必要な量子力学の専門用語

絶対に欠かすことのできない用語は「状態の共存」「観察者効果」です。

それぞれを一言でまとめると,
「状態の共存」とは複数の結果に成りえる状態のことであり,
「観察者効果」とは観察することで観察対象に与える影響のことなのですが……

これだと単に言い換えているだけなので,具体例を用いて見ていきましょう。

「状態の共存」と「観察者効果」とは

まず,50%の確率で放射線を出す物質を用意します。
(ここでは,ラジウムという物質とします)

放射線が出ているかどうかは,観察をすればすぐに分かります。

問題になるのが,観察できない(していない)時,放射線が出ているかどうかです。

ラジウム1つを透明ではない箱に入れ,密閉します。

この時,放射線は出ているでしょうか。
①放射線は出ている。
②放射線は出ていない。
③放射線が出ているかどうか,まだ決まっていない。

量子力学の考えでは,答えが③になります

さらに正確に言うと,量子力学ではこの状況を
放射線が出ている状態と,出ていない状況が同時に存在している(共存している)
と考えます(なんだかもやもやしますね)。

このように複数の状態が同時に存在していることを
状態の共存」といいます。
(重ね合わせともいったりもします)

……では,放射線が出ているかどうかはいつ決まるのか。

それは,誰かがこの箱を開け,中を観察したときです。

誰にも観測されていない箱の中のラジウムは,
放射線を出している状態と出していない状態が共存しています。

これを誰かが観測することで,初めて
「放射線を出している」のか「放射線を出していない」のかが決まるのです。

このように,物事を観測することで結果が決まることを
観測者効果」といいます。

状態の共存:複数の状態が共存していること。

箱の中にあるラジウムは,
「放射線を出している状態」と
「放射線を出していない状態」が共存している。
観測者効果:観測することで,状態が決定すること。

箱の中のラジウムは,観測されることで
「放射線を出している」のか
「放射線を出していない」のかが決定する。

この話を知った時,私は
「え,そんなことあるわけなくない? 放射線を出しているか出していないかの2択でしょ」
と感じました。

しかし,量子力学の世界ではこの考えが正しく,珍しくもないことなのです。

状態の共存と観測者効果は,超高性能の顕微鏡でしか
見ることのできないような,とても小さな物質で起こる話です。

小さな物質の世界では,不思議なことが起こるのですね!!

と,納得できない人も当然います。
そのうちの一人が,シュレーディンガーです。

彼は状態の共存と観察者効果の2つに疑問を持ち,
この理論に反論をするための実験を考えます。

それが,シュレーディンガーの猫なのです。

シュレーディンガーの猫

シュレーディンガーは,「状態の共存」と「観察者効果」を
目に見える大きさまで拡大した実験を考えます。

中の見えない密閉された箱の中に
・猫
・ラジウム(50%の確率で放射線を出す物質)
・毒ガスの入った容器
・放射線を検知すると毒ガスを出す装置
の4つを入れます。

ラジウムが放射線を出すと,毒ガスが発生し猫は死んでしまいます。
つまり,猫の生死はラジウムが放射線を出すかどうかで決まるわけです。

先ほどの理論が正しいとすると,ラジウムは
「放射線を出している状態と,放射線を出していない状態が共存している」
という状態です。

そうすると,猫は
死んでいる状態(放射線が出ている状態)と生きている状態(放射線が出ていない状態)
が共存していることになります(死と生の重ね合わせの状態)。

そして,猫の生死が決定するのは,誰かがこの箱を開き,
中を観察した瞬間ということになります。

『こんなことは絶対におかしい,ありえない,
箱の中を確認せずとも,猫の生死は決まっているはずだ。』
というのがシュレーディンガーの猫の主張なわけです。

しかし,この実験では状態の共存と観測者効果を
否定することはできませんでした。

状態の共存と観測者効果を否定するためには,
箱の中を観察せずに,猫が生きているか死んでいるかを
断定し,それを証明する必要があります。

こんなこと,できるわけがありません。

結果として,状態の共存と観測者効果を否定するどころか,
この2つの考えを否定することは難しい,ということを示してしまったのです。

なんとも皮肉な話です。

……ご存じの方も多いと思いますが,
この実験を最後にシュレーディンガーは物理学の世界から離れ,
違う分野の研究に専念します。

証明することをできない事柄を悪魔の証明と呼びますが,
「状態の共存と観測者効果はありえないことの証明」は
悪魔の証明の域に入っているのかもしれませんね。

さいごに

今回は,最小限の専門用語でシュレーディンガーの猫を
解説しましたが,いかがだったでしょうか。

もやもやする考え方で,気持ち悪いと感じる人も多いようです。

実は,かの有名なアインシュタインもこの考えに対し否定的でした。
彼は次のように語り,量子力学の考えに不満を示しています。

「私が見ていなくても,月はそこにあるはずだ」

観察をしなくても,月は存在し,月のある位置は決まっている。
観察をしなくても,客観的に物事は決まり,物体は存在している。
観察することで物事が決まるのはおかしいということを,月に例えて表現したのです。

アインシュタインをはじめ,
この問題はさまざま研究者が自身の考えを述べています。

歴史に名を残してきた研究者がどのように考えたかを
調べるのも面白いかもしれませんね。