突然ですが,1つ問題です。
答えはもちろん「かならず交わる」ですね。
ただし,この答えは【公理】というものが
存在することを前提にしています。
もし,【公理】が存在しなかった場合,
この問題の答えは「交わるかどうか分からない」
となります。
この問題に限らず,公理をが存在しない場合,
ほぼ全ての問題は答えを出すことができません。
この記事では,「公理とは何か」ということを
具体例を用いながら解説していきたいと思います。
公理とは?
あまり聞きなれない言葉かもしれませんが,
辞典にもしっかりと載っている言葉です。
[1] 一般に通用する道理。
[2] 数学で、論証がなくても自明の真理として承認され、他の命題の前提となる根本命題。
[3] 自明であると否とを問わず、ある理論の前提となる仮定出典:デジタル大辞泉|小学館 (閲覧日:2021/07/24)
数学的な内容を述べているのは,[2] と[3] ですね。
簡単にまとめると,「確認をしなくても,正しいとして扱う前提内容」のことです。
数学での「正しい」とは,理論に基づいて証明がされた内容を指します。
証明された内容を基にして,新しい理論がさらに展開されていくわけです。
このようにして,新しい理論や公式が見つかっていくのです。
ただ,一番最初の事柄(理論の出発点)だけは「正しい」という
証明はできないので,正しいとするわけです。
今回の例でいうと,Aの部分が【公理】になります。
文字だけだとイメージがつきにくいので,
具体例を踏まえながら見ていきましょう。
公理があるから問題が解ける
冒頭で「公理が存在しなかった場合」という表現をしましたが,
公理は議論の出発点なので,本来そんな状況はあり得ません。
しかしながら,今回は「公理が存在しなかったらどうなるのか」
ということの説明のため,あえて公理が存在しないという前提で,
先ほどの問題を見ていきましょう。
一見,公理なんて存在しなくても交わりそうに見えるので,少し情報を追加してみます。
2直線は,現代科学で観測できる宇宙のギリギリの所にありますね。
つまり,この2直線が交わるかどうかを確かめることは不可能です。
この2直線が交わると断言するには,宇宙が無限であるということを
証明しなければなりません。
この記事を書いている時点では,宇宙が有限か無限かの
証明はされていないので,「この2直線が交わるかどうかはわからない」
という結論になります。
……直線が交わるかどうかということは,
図形問題を解く上で非常に重要な項目です。
問題を解くたびに
「宇宙が無限かどうか分からないから,この2直線も交わるかどうか分からないなぁ」
なんて考えていたら,先に進めるわけがありません。
こんな状況を解決してくれるのが公理です。
今回の問題を解決してくれるのは「平行線公理」というものです。
具体的な内容は
「2直線に他の1直線が交わってできる同じ側の内角の和が2直角より小さいなら,この2直線を延長すると,2直角より小さい側で交わる。」
というもの。
形式的な表現で少々わかりにくいですが,簡単に言うと
「同じ平面上にある直線で交わらないのは,互いに平行な2直線のみである」
ということです。
今回の問題は,「同じ平面上にある,平行ではない2直線」なので
必ず交わるということですね。
宇宙が無限かどうか不明なので,厳密には
この2直線が必ず交わるかは不明です。
ただ,このままだと議論が進まないので,
「同じ平面上にある直線で交わらないのは,互いに平行な2直線のみである」
という内容を正しいとし,理論を進めるわけです。「平行線の問題で宇宙なんて考えないだろ普通!!」
という野暮な突っ込みはご遠慮ください。
このように,公理をしっかりと定めておくことで,
問題を解くことができるのです。
逆に言うと,公理を考慮しない場合や,曖昧な状態では,
ほぼ全ての問題が解けなくなります。
公理は1通りだけではない
公理はあくまでも理論の出発点なので,同じ事柄に対して
複数存在しても問題ありません。
有名な話だと「自然数に0を含むか含まないか」ということでしょうか。
高校数学までの公理は,自然数には0を含まず,1から始まります。
大学以降の数学の公理では,自然数に0を含む場合があります。
お互いの公理を確認しないと,議論がかみ合わないので注意が必要です。
前提知識や認識を確認しないと議論が進まないというのは,
数学だけではなく一般的な会話にも通ずるものがありそうですね。
証明ができたら「公理」ではない
重ね重ねになりますが,公理とは
「証明不要で正しいとする,議論の出発点」です。
言い方を変えると,証明ができてしまう内容は公理ではありません。
新しい公理が提唱された場合,様々な数学者がその内容を
証明できないかを確認します。
その結果,内容が証明できないかつ,議論の出発点になる場合は
その内容が公理として認められるのです。
という感じです。
さいごに
今回は数学の内容に絞って公理を解説しましたが,いかがだったでしょうか。
数学の世界以外でも,【公理】は存在します。
(というよりも,公理がない世界はありません)
例えば,記事を書くにあたっての公理は,
「読者の皆様は日本語の文章を読解できるとする」です。
この前提がなければ,本記事は意味不明な記号の塊にすぎないのですから。